お知らせ

猫のアジソン病について


こんにちは。

獣医師の伊藤です。

 

アジソン病という病気をご存知でしょうか?

副腎皮質機能低下症とも呼ばれる病気で、

ヒトでは難病指定されている

ホルモンの分泌異常が起こる内分泌疾患です。

『副腎』という腎臓のすぐ近くにある小さな臓器が、

病気によりホルモンを作れなくなってしまい、

様々な症状が現れます。

犬では稀にみられる病気であり、

猫では非常に稀な病気です。

 

犬のアジソン病については、

過去のブログでも取り上げていますので、

ぜひそちらも読んでみてください。

 

今回は猫のアジソン病についてお話したいと思います。

 

3歳の男の子の猫ちゃん(去勢済み)

以前より『なんとなく調子が悪い、なんとなく食欲が少ない』

という症状が波のように出たり、

改善したりという状況が続いていました。

これまで血液検査での健康診断では特に異常は見つからず、

調子が優れないときも脱水はあるものの、

一般的な検査では他に異常は認めず、

また対症療法にて改善していたため、

大きな病気の可能性は低いと判断していました。

 

今回もこれまでと同様の主訴であり、

血液検査はこれまで同様異常は無く、

点滴治療による対症療法で経過を見ることになりました。

しかし、今回は点滴治療を行っても

思ったほどの体調の改善はありませんでした。

 

これまで同様の症状を繰り返し、

体調の起伏が大きい猫ちゃんでしたので、

飼い主様と相談し、

一度詳しく検査を行ってみることになりました。

 

血球検査(CBC)
血液生化学検査
電解質検査
甲状腺ホルモン(T4)検査
超音波検査(胸部、腹部)
レントゲン検査(胸部、腹部)

を実施しました。

 

結果は、

血液生化学検査、電解質検査、T4検査、超音波検査では

明らかな異常は確認できず、

CBCにてヘマトクリット値の上昇、

胸部レントゲン検査にて、

やや心臓が小さいことがわかりました。

心臓が小さい状態のこと小心症と呼びますが、

これは出血や脱水により循環血液量が減ったときなどにみられたり、

あるいは慢性的な循環血液量の低下を伴なうアジソン病でもみられます。

 

これまでの経過と小心症の存在から

アジソン病の可能性を除外するために

飼い主様と相談し、

ACTH刺激試験によるコルチゾールの測定を

追加で検査させていただきました。

 

ACTH刺激試験とは、

アジソン病の確定診断を行うための検査です。

正常な猫では、

脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌され、

副腎はACTHの刺激を受けてコルチゾールという

副腎皮質ホルモンを分泌します。

アジソン病の猫では副腎が機能せず、

ACTHの刺激を受けてもコルチゾールの分泌が

ほとんど認められません。

 

今回の猫ちゃんは

ACTH刺激前、刺激後のそれぞれのコルチゾール値が

正常値以下という結果となり、

副腎の機能が明らかに低下していることがわかりました。

猫では非常に稀ではありますが、

アジソン病であることが分かりました。

 

今回の猫ちゃんの診断には時間がかかりましたが、

その原因として、

典型的なアジソン病の特徴が少なかったことが挙げられます。

犬や猫のアジソン病を疑う時の一つの所見として

電解質の乱れがあります。

典型的には低ナトリウム血症、高カリウム血症が認められます。

犬のアジソン病の80%で低ナトリウム血症、

高カリウム血症の両方が確認され、

10%で低ナトリウム、

高カリウム血症のいずれかが確認され、

残りの10%は電解質の異常なしという報告があります。

猫でもアジソン病の場合には

電解質の異常は現れる場合が多いと考えられます。

 

今回の猫ちゃんは電解質の乱れが無かったため、

非典型アジソン病と考えられます。

非典型アジソン病では、まだ副腎の機能が一部残っているため、

典型的なアジソン病で確認される徴候が少ないと考えられます。

ただし、病状の進行により、

今後電解質の異常が現れる可能性もあるため、

定期的なモニタリングが必要になります。

 

アジソン病の治療は、

急性期には点滴治療を行うことが大事で、

同時に不足している副腎ホルモンをお薬として補充することを行います。

慢性期(維持期)には、

お薬を飲み続けることで落ち着いた生活を送ることができます。

典型的なアジソン病では、

ミネラルコルチコイド、

グルココルチコイドの2種類のお薬によるホルモン補充を行います。

急性期症状を脱して、

ホルモン補充により維持治療が可能になれば、

予後は良いとされています。

 

今回の猫ちゃんでは、

まずグルココルチコイドの補充を始めることにしました。

幸いにもお薬を始めてからは、

元気も出始めて、食欲も増えています。

今後は、定期的に状態を確認しながら、

状況に合わせてミネラルコルチコイド補充治療を考慮することになります。

 

アジソン病は、急性期の状況を脱し、

維持治療で体調を安定化させることができれば、

内服治療は生涯必要になりますが、

予後は良いとされています。