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猫の肥満細胞腫


 

犬と猫の腫瘍性疾患の中で発生頻度の高いものの一つに「肥満細胞腫」という病気があります。肥満細胞はその細胞内に様々な種類の化学物質を含む顆粒をもち、細胞が膨れているため、肥満細胞と呼ばれます。炎症反応や免疫応答などで働いたり、アレルギー反応に関わっていたりします。そのような肥満細胞が腫瘍化した病気が肥満細胞腫です。

今回ご紹介するのは、猫ちゃんで見つかった肥満細胞腫です。 

猫ちゃんの肥満細胞腫には、主に皮膚に発生する皮膚型と主に内臓に発生する内臓型があります。今回の猫ちゃんは内臓型でした。

 内臓型肥満細胞腫は、元気消失、体重減少、食欲不振、嘔吐や血便などの消化器症状が見られることが多いです。また腫瘍は広範囲へ広がり、貧血や胸水などを引き起こすことがあります。また、肥満細胞の中にはアレルギー症状を引き起こすヒスタミンやヘパリンといった物質が含まれています。腫瘍化した肥満細胞が何かのきっかけで壊れてしまうと、この物質が放出されてしまい皮膚に発赤や強いかゆみ、むくみなどが起こることがあります(ダリエ徴候)。

 診断は、細胞診という方法で比較的容易に診断をつけることができます。体にできた腫瘍に細い針を刺して細胞を採取して顕微鏡で見て診断します。肥満細胞腫を顕微鏡で観察すると、特徴的なツブツブの細胞が多く見られます。ただし、その細胞がみにくい肥満細胞腫もありその場合は細胞ではなく腫瘍の塊を採取して検査する必要があります。

K8132132-2.jpg 肥満細胞

 この猫ちゃんの場合、超音波検査にて脾臓の著しい腫大を認め、さらに腹水が少量貯留していました。腹水を採取し、顕微鏡検査したところ、多くの肥満細胞が確認できました。さらに末梢血液の顕微鏡検査においても肥満細胞が確認できました。身体検査、画像検査などから脾臓以外の場所、臓器での腫瘍を疑う所見がなかったため、脾臓における内臓型肥満細胞腫と診断しました。

腫大した脾臓、腹水貯留の超音波検査所見

猫の肥満細胞腫の治療は、外科手術が可能であれば第一選択の治療法となります。

皮膚型肥満細胞腫に比べ、内蔵型肥満細胞腫は悪性度が高い場合が多く、発見時にはかなり進行している場合も少なくありません。

この猫ちゃんも貧血などの所見は見つかりましたが、手術前にしっかりと治療を行うことで腫瘍化した脾臓の摘出手術は可能と判断しました。

 

手術は無事に終わり、腫瘍化により著しく腫大した脾臓が摘出されました。

 摘出された脾臓

     脾臓の細胞診所見

 術後は肥満細胞腫の再発を可能な限り抑えるために、抗がん剤やステロイド剤、H2ブロッカーなどの化学療法を行います。

この猫ちゃんでは、ステロイド剤としてプレドニゾロン、H2ブロッカーのファモチジンを内服しています。術後も少しの間は腹水の貯留を認め、一時的に皮膚への転移を認めたものの、それらの症状も現在では改善され、毎日元気に暮らしています。

ヒトと同様、犬と猫でも腫瘍性疾患は非常に多く、特に中高齢以降その発生が増えてきます。ただ、腫瘍が発症したからといって何も出来ないわけではありません。腫瘍で苦しんでいる患者さんと飼い主様にとって、より良い毎日を送れるためにできる治療を考え、提供できるようにしたいと考えています。いつでもご相談ください。

獣医師 伊藤