お知らせ

猫の消化器型リンパ腫


 

先日、1か月以上にわたる食欲低下、体重減少を主訴に来院された高齢の猫さん。

体重は大きく減っており、脱水症状も強く出ていました。身体検査にて、腹腔内腫瘤を認めたため、血液検査および腹部超音波検査を実施しました。

超音波検査では、小腸壁の一部が著しく肥厚し、正常な小腸壁で認められる層構造が消失し、腫瘍性疾患を疑う所見でした(下画像)。

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また、腎臓も形態がいびつになっており、小腸同様に腫瘍性疾患を疑う所見でした(下画像)。

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腫瘍性疾患が疑われたため、超音波ガイド下での細胞診検査を実施したところ、リンパ腫を疑う所見でした(下画像)。

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小腸を原発とする消化器型リンパ腫および腎臓への転移と判断しました。

血液検査では、腎臓機能も低下していることが分かりました。

この猫さんは高齢であること、全身状態が低下していること、転移が認められることなどから、飼い主様は積極的な治療は望まれませんでした。可能な限り、全身状態を整え、生活の質を向上するための緩和療法を行うことになりました。

 

(今回ご紹介した猫の消化器型リンパ腫について)

リンパ腫とは白血球の一種であるリンパ球が腫瘍化する病気であり、いわゆる「血液のがん」です。リンパ腫は猫の腫瘍性疾患で最も発生頻度が高いことが知られています。ただし、リンパ腫にも様々な病型があり、発生部位や症状、悪性度、進行速度、治療法、予後などはそれぞれ大幅に異なります。猫の消化器型リンパ腫は、ある報告では猫のリンパ腫全体の10-13%を占めるとのことです。特に中高齢の猫において良く遭遇します。

猫の消化器型リンパ腫は文字通り、消化管に限局したリンパ腫細胞の増殖があり、その腫瘍細胞は比較的成熟(=高分化)し、増殖活性の低い傾向にある腫瘍です。このため慢性かつ緩徐に進行する消化器病といった特徴を示し、初期症状に気付きにくく見過ごされてしまうことが少なくありません。しかし、早期発見ができれば、完治は困難ですが、適切な治療によって寛解=生活の質を落とすことなく寿命を全うできる可能性があります。ただし、なかには悪性度が高く急激に体調不良を示し、予後不良の消化器型リンパ腫の場合もあります。

中高齢を迎えた猫さんは、元気に過ごしていても体重の変化など、ちょっとした変化を確認するためにも定期的な健康診断を受けることをお勧めします。病気を早期発見できれば、治療の選択肢も多く、猫さんのよりよい生活の維持が可能と考えています。

 

当院では、春と秋に定期健康診断を行っております。ぜひ、この機会に愛猫さんの健康チェックをしてみてはいかがでしょうか。