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猫の多発性嚢胞腎


 

猫さんで多い病気に慢性腎臓病があります。加齢とともに腎臓の機能が低下し、徐々に様々な症状が現れていきます。そんな慢性腎臓病ですが、猫さんの中には単なる加齢ではなく、遺伝的に腎臓に病気を抱えていて、腎臓の機能が低下する子もいます。多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)が、その1つです。

多発性嚢胞腎は、ゆっくりと進行する、不可逆的な(一度起きてしまうと元に戻らない)、遺伝性の腎臓の病気で、 ペルシャネコやペルシャと血縁関係にあるネコに多く見られます(最近では、アメリカンショートヘアー、スコティッシュホールド、 雑種などでも存在することが分かっています)。 この多発性嚢胞腎は、他の動物種やヒトでも報告がありますが、ヒトでは難病指定されている疾患です。

最終的に、多発性嚢胞腎は腎不全を引き起こし、この病気のネコは、他の原因から発症した腎不全のネコと同じような臨床症状 (食欲不振、多飲多尿、体重減少など)を示します。この多発性嚢胞腎は、遺伝病で生まれつきのものです。 どちらかの親に、腎臓を構成するタンパク質を作り出すある遺伝子の異常があると、子どもに50%の確率で遺伝します。

その遺伝子の異常によって、ネコが年をとるにつれて、両方の腎臓にできた小さな嚢胞(液体を入れたふくろ状の構造)が、 ゆっくりとしかし確実に数を増やしながら大きくなっていき、結果として腎臓が劇的に大きくなります。 嚢胞は、正常な腎臓の組織にとって変わり、腎機能は絶えず低下していきます。 嚢胞の大きさは、1mmに満たないものから1cmより大きいものまで様々です。多発性嚢胞腎は、ネコの晩年には(だいたい7歳が平均年齢です)、 腎不全の臨床症状を引き起こすまでに進行します。ただ、この遺伝病は、ゆっくりと進行するため、徐々に低下する腎機能に体が順応して、 腎不全の臨床症状を示さないネコも存在します。また、嚢胞は腎臓だけでなく、肝臓や子宮などほかの臓器にも見られることがあります。

pkd kidney.png 小さい嚢胞が多数ある腎臓

pkd.jpg 比較的大きい嚢胞のある腎臓

pkd liver.png 肝臓にも多数の嚢胞を認めた症例

 

残念ながら、この病気を治すことはできません。しかし、一般的な慢性腎臓病と同様に腎臓の保護を目的とした治療や現れた症状に合わせた対症療法を行うことで、身体への負担を減らし、毎日をより快適に暮らせるようにしていくことはできます。

多発性嚢胞腎も慢性腎臓病も早期発見、早期治療介入が猫さんの長生きに、それぞれの猫さんらしい生活を送ることに繋がると考えています。そのためにも、気になる症状があるときはお早めの病院受診をお勧めします。また、元気に過ごしている猫さんも定期的な健康診断を受けることをお勧めします。