来院される犬の症状の中で多いものに皮膚病があります。特にかゆみを伴う皮膚病は多いです。
そんなかゆみを伴う皮膚病の中でも、年齢を重ねてから発症するものに「皮膚型リンパ腫」という皮膚の腫瘍があります。皮膚病の中では特に怖い病気の一つです。
リンパ腫は、犬の腫瘍性疾患の中では発症率の高い疾患ですが、皮膚型リンパ腫は稀な疾患です。ちなみに猫もリンパ腫は少なくありませんが、皮膚型は犬よりも稀といわれています。
好発犬種はボクサーやイングリッシュ・コッカー・スパニエルという報告がありますが、海外での報告であり、日本国内での好発犬種に関するまとまった報告はありません。二次診療施設での症例を見ると、シー・ズーやミニチュア・ダックスフンド、マルチーズでの発症がやや多い傾向があるかもしれません。性差の報告はありません。高齢犬(平均9~12歳)での発症が多いです。
この病気の難しいところは、皮膚症状が他の皮膚病と似ていたり、強いかゆみを伴っていたりするので、一見すると犬で多いアトピー性皮膚炎や細菌性皮膚炎などと区別がつかない場合も多いです。
具体的な症状は、初期には皮膚炎のような症状を示します。皮膚の赤みや局面(軽度の腫れ)、びらんや潰瘍(赤くジュクジュクとする)、落屑(フケ)、結節(腫瘤)などの症状が局所性あるいは多発性に現れることがあります。また皮膚と粘膜の境界部や口腔粘膜の病変が現れることもあります。痒みが強く出る場合もあります


また、食欲不振や元気消失などの全身症状を伴う場合もあります。
診断は、基本的な皮膚病の診察・検査から始めます。
問診で、犬種や年齢、いつからの症状なのか、治療歴はあるのか、あるとすれば効果があったなど確認していきます。
身体検査で、皮膚病変だけでなく、口腔内や耳、肛門、陰部、体表リンパ節の異常が無いかを観察します。
通常の皮膚病であれば、上記までで診断できる場合もありますが、もし皮膚型リンパ腫などの特殊な皮膚病の疑いがある場合には、血液検査や細胞診などの追加検査をご提案します。
細胞診検査は、院内で実施できる検査であり、腫瘍の疑いの有無や肥満細胞腫などリンパ腫以外の腫瘍の確認もできます。

細胞診で腫瘍性疾患の疑いが強い場合には、皮膚生検を実施し、皮膚病理学検査を行うことをご提案します。皮膚型リンパ腫を含めて、特殊な皮膚病の確定診断には、皮膚組織の病理組織学的検査が必須となります。ただし、1回の皮膚生検で診断が出ないときがあるため、結果の判断には注意が必要です。
皮膚型リンパ腫の治療は、抗がん剤を中心とした化学療法となります。しかしながら、今のところ絶対的な有効な治療法が確立されているわけではありません。そのため、患者さんの状態、症状に合わせて治療法を選んでいきます。
予後に関しては、残念ながら根治は非常に難しいです。
治療の目的は、生活の質(QOL)を可能な限り保つことです。治療を行うことで、強いかゆみや痛みから解放されて、元気を取り戻してくれ、残りの時間を少しでも穏やかに過ごすことが出来るかもしれません。
診断時に既に状態が良くない場合には、慎重に治療法を相談し、決定していきます。
過去の症例報告による生存期間の中央値は6ヶ月といわれています。
皮膚病が原因で命を落とすことはあまり想像ができないかもしれませんが、稀とはいえ、このような病気もあります。もし、なかなか治らない皮膚病にお悩みの場合は一度ご相談ください。