お知らせ

猫ヘルペスウイルス感染症について


猫ヘルペスウィルス感染症は猫ヘルペスウィルス1型(以下、FHV-1とします)によって引き起こされる感染症の総称で、いわゆる「ネコ風邪」の症状としてよく見られる上気道炎、鼻炎、結膜炎などを生じます。

こういった角膜に潜伏するFHV-1が猫の角膜炎や角膜潰瘍の大きな原因となります。猫では角膜の病気は起こりにくいものですが、このFHV-1による角膜炎や角膜潰瘍(かいよう)をはじめとする眼疾患の多くに関わっております。猫の角膜には正常に見えるものでも、おおよそ半数にFHV-1の遺伝子が検出されます。その発病のかたちはよく見られる結膜炎をはじめ、樹枝状角膜潰瘍、角膜黒色壊死症、好酸球性角膜炎など治療が難しい場合や時間がかかる場合もあります。また、マイコプラズマやクラミジア、カリシウイルスなどの病原体と混合感染を起こすことも多く、より重篤な症状になることもあります。

FHV-1の感染が疑われる場合には角膜疾患への対症療法に加えて、ファムシクロビルなどの経口の抗ウィルス薬を用いて治療いたします。こういった抗ウィルス薬による治療は効果的なものではありますが、使用される抗ウィルス薬は一般的に薬価が高く、さらに3か月程度の長い期間がかかるという医療コストの問題があります。

最近になり、猫用の抗ヘルペスウイルス点眼薬(有効成分:イドクスウリジン 千寿製薬)が販売され、内服治療が困難な猫さんへの治療やまだ子猫で経口での抗ウイルス薬の使用が難しい場合の治療が可能になりました。

IDU「センジュ」_01_0.jpg

 

下写真の猫は保護された直後に両目とも重度の結膜炎および角膜炎を起こしていました。それ以外にも鼻汁など上部呼吸器症状や食欲低下などの症状も伴っていました。

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FHV-1の感染に加え、マイコプラズマやクラミジアなどの混合感染が疑われたので、抗生剤、抗ウイルス薬の内服に加え、抗生剤点眼、抗ウイルス点眼を使用して治療を行いました。
20210828_104247up.jpg 治療開始2週間後

20210904_113112up.jpg 治療開始3週間後

結膜の充血や浮腫は改善し、角膜炎も改善傾向となり、確認できなかった眼球が見えるようになってきました。角膜の白濁など一部症状は残ると思いますが、眼の痛みや不快感は解消され、元気食欲も回復しています。引き続き治療を続けていきます。